今日は ”目” についてなんですが、 医学的な 目 ではないんです。
私が小学生の頃、住んでいた静岡県掛川市に台風が来ました。 まだ、小学校の低学年だったように思うのですが、はっきり何歳とは覚えていないのです。理由は判りませんが、一人で家にいました。 その後、出かけて叔父さんの家に行こうとしました。親が居たら、台風のさなかに外出なんかさせないはずですから、何か用事で留守だったんでしょうね。 大変な暴風雨の中、小さい女の子 (これ、私の事ですよ) が、傘をさし、長靴を履いて田舎の道を歩いて行きました。 よく吹き飛ばされなかったと思います。 当時の掛川市は、田舎でしたからビル等は一つも無く、いわゆる里山です。小川もあり、水嵩がまして、凄い勢いでドウドウと流れ、今にも溢れそうでした。
子供ですから、ビックリして、というか、感激して、というか珍しいのでシゲシゲと眺めたりしながら必死に傘を持って、歩いて行きました。 おじさんの家までは、歩いて10分位だったように思いますが、何しろ台風の真っ最中ですし、子供ですから、全然進みません。見渡す限り、私以外、誰一人外にいませんでした。だから注意したり、家の人に知らせてくれる人もいなかったんでしょうね。
そんな訳で、ヨロヨロ歩いたり、凄い黒雲に覆われた空を見上げたり、小川を見たりしていると、空の端に、細ーい筋のようにほんの一部分に青空が現れました。 子供心に、これは不思議な事だ、と思い、目を凝らしていると、みるみる内にそれは太く大きくなって三日月のようになりました。 暴風雨の真っ黒な雲の空の端に、少々青空が現れたのです。 何事だろうと思って立ち止まり、ジッと見ていると、グングンという勢いで、それは大きくなって空を分捕って行きます。細い円弧だったのが、丸に近くなって行き、空の大部分が青空になって行くのです。 空の上に何異変が起こっていると感じました。
その青空は、綺麗な青なのですが、気持ちの良い青空の青では無く、コバルトブルーにパステルブルーを混ぜたような、少々不安な青でした、そして、その境目は、実に綺麗な円弧を描いていますが、縁は黒い台風の雲が他より厚くなっています。 それがドンドン動いて大きくなって,丸い部分が広がっていく様は、結構面白い見物でしたから、もう立ち止まって見ていました。 それは、車が近ずいてくるようなスピードで動いてきて、やがて空一杯に丸い青空となってしまいましたが、縁取りのように少しだけ厚い黒い雲が見えている所もあります。 田舎ですから、遮る物も無く、本当に青空で、風も止み、雨も降りません。
この隙に家に帰れば良いものを、子供ですからそんな知恵は働かず、ずっと立って見ていると、やがてそれは、今度は現れた時と正反対に、黒い雲が現れましたが、今度は反対の円弧を描いています。まあ、黒い汚い爪の形と思って下さい。黒雲に青空が分捕られ、徐々に動いて行き、やがて、空全体が元の台風のとんでもない厚い黒雲に覆われ、雨と風がビュービューです。全部で、1時間位で通って行ったように思うのですがもう少し経っていたのかもしれません。 その大空のショーを見た私は、何故か満足し、叔父さんの家に行くのは中止して家に帰りました。 そして、この事は、誰にも言いませんでした。 親にバレると叱られると思ったのでしょうね。
これが、私の頭の真上を通った台風の ”目” のお話です。 面白くなかったらごめんなさい。